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2008年3月29日 (土)

終わっていないTBS不二家捏造報道問題

郷原信郎氏がTBS不二家捏造報道の経緯について中央公論2008年3月号に寄稿し、桐蔭横浜大学法科大学院教授・コンプライアンス研究センターのホームページpdfファイルが公開されている。

中央公論 2008年 03月号 [雑誌]
「中央公論 2008年 03月号 [雑誌]」
[雑誌]
出版:中央公論新社
発売日:2008-02-09

これまでの経緯が非常にわかりやすく記述されているので氏の論文に資料文書と資料映像をリンクするかたちでこれまでの流れをまとめ直してみた。

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郷原信郎氏(左)と井上弘TBS社長(右)


2007.05.10 衆議院・決算行政監視委員会
 枝野幸夫議員の問題提起と田村憲久総務副大臣の答弁

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「朝ズバッ!」不二家報道"捏造"疑惑の真相

TBSに企業不祥事を
追及する資格はあるのか

郷原信郎/桐蔭横浜大学法科大学院教授・コンプライアンス研究センター長 


 二〇〇七年十二月四日、六本木のコンプライアンス研究センターに、TBSの女性社員が封筒に入った回答書を持参した。
 その年の三月三十日に、不二家信頼回復対策会議議長として報告書を公表して以降、TBSの番組「みのもんたの朝ズバッ!」の不二家関運の報道での捏造疑惑を追及してきた私に対して、TBSが公式に行った最初で最後の回答だった。
 文面は「私ども東京放送は、外部委員を交えたTBS検証委員会から報告書の提出を受け、当社のホームページ上に掲載しており、その内容に関する個別、具体的な質問については、答えを差し控えさせて頂きます」というもので実質的には「回答拒否」だった。
 私が問題にしていたのは、「不二家の平塚工場での賞味期限切れチョコレート再利用疑惑」の報道の中で、客観的事実に反する無価値な証言を、編集によって他の趣旨の証言にすり替えて放送した捏造、すなわち証言偽装の疑惑であった。TBSの回答は、偽装聞題で追及されたら、社外委員も含めた検証委員会を立ち上げて報告書作成してもらい、それを自社のホームページにアップすれば、後は何も答えなくて良い」と言っているに等しい。それは、報道機関としてのTBSが企業不祥事追求の資格を自ら返上したことを意味する。
 それは、同年三月以降の私の追求に対して、不自然、不合理な言い逃れ、弁解を重ねてきたTBSが、追い込まれた末に、まさに苦し紛れで出してきた理屈であった。


不二家をめぐる大バッシング

 二〇〇七年一月、消費期限切れの牛乳を原料に使ったシュークリームを製造し、出荷していたことが発覚したことなどで、新聞、テレビなどから連日激しいバッシングを受け、菓子メーカーの「不二家」は、存亡の危機に立たされた。同月末、弁護士、有識者による「信頼回復対策会議」が設置され、私はこの会議の議長に就任した。
 不二家問題のキーワードは「発覚したら雪印の二の舞」という表現だった。不二家は、そういう言葉で社内に箝口令を布いて事実を隠蔽しようとした、そこまでやるぐらいだから、その「消費期限切札の牛乳」は品質が悪化していて、それを原料として使用した不二家の行為は食品メーカーにあるまじき悪質なものだ――というのが、一般の人の認識だったし、私もそう思っていた。
 信頼回復対策会議議長としての私の役割は、そのような行為が行われた原因を究明し、再発を防止するための措置を検討することだと考えていた。
 しかし、私の認識は間違っていた。消費期限切れの牛乳は食品衛生上、品質上間題はなかった。それを原料として使用したのは形式的なコンプライアンス違反に過ぎなかった。「雪印の二の舞」という言葉も、不二家内部の者が考えた言葉ではなく、同社が業務の全面見直しのために委託した外部コンサルタント会社のスタッフが、消費期限切れ原料使用の事実を発見し、それをセンセーショナルに表現した報告書を作って不二家の経営陣が出席する会議の場にいきなり提出し、それが外部に流出したものだった。その悪意に満ちた表現のために、不二家が大変な誤解を受け食品メーカー失格の烙印を押されてしまった、というのが事件の真相だった。
 私の役割は、むしろ、不二家がその程度の行為で、なぜマスコミからこれほどまでの大パッシングを受け、存亡の危機に立たされることになったのか、その原因を究明し、信頼の回復のための対策を講じることだと思った。
 不二家間題に関する多くの報道が、食品衛生法や食品製造の実態についての無理解や誤解に基づくものだった。そのなかでも特にひどかったのは、TBSの情報番組「みのもんたの朝ズバッ!」の報道だった。この番組では、不二家問題に、一月中だけで合計三時間四〇分、一日平均一五分という異常なまでの時間をかけて連日バッシングを行っていた。

連日のバッシング

 「朝ズバッ!」の不二家バッシングは、間題となった洋生菓子から始まって、チョコレート、クッキーなどの一般の菓子についても、異物混入の問題を取り上げるなど不二家の全製品に及んでいた。不二家製品は、全国の小売店の売り場から撤去され、一月末には缶飲料まで製造停止に追い込まれた。
 二月中旬の信頼回復対策会議の終了後、事務局を務めていた不二家の社員の一人が、「朝ズバッ!」の報道内容に関するファイルを私に渡し、「この番粗だけは許せないんです。先生、何とかできませんか」と言ってきた。
 そのファイルは、「新証言 不二家の"チョコ再利用"疑惑」と題して行った一月二十二日の「朝ズバッ!」での報道に関する資料だった。番組内容の再現資科と、不二家側とTBS側との交渉経緯を記載したペーパーなどの関達資料が綴られていた。


「朝ズバッ!」の顔なし証言

 この放送では、「情報提供者は、不二家平塚工場の元従業員。彼女によれば、賞味期限が切れたチョコレートの包装をしなおしたり、溶かし直して再利用していた、というのです」というアナウンサーのナレーションに続いて、不二家・乎塚工場の元従業員と称する女性が首から下だけの映像で画面に登場し、チョコレートの包装をし直したり、溶かし直したりしていたと証言する。
 そして、司会のみのもんた氏が、溶かしたチョコレートに牛乳を流し込むイラストのフリップを示しながら、「賞味期限の切れたチョコレートと牛乳を混ぜ合わせて新しい製品として再出荷しちゃう」などと説明し、

一月二十二日の「朝ズバッ!」での報道

さらに翌日には不二家の新社長就任を伝える揚面で、「古くなったチョコを集めてきて、それを溶かして新しい製品に作り直すような会社ほもうはっきり言って廃業してもらいたい」などと発言した。

一月二十三日の「廃業してもらいたい!」発言

 この放送内容には明らかな誤りと不合理な点があった。第一に、チョコレートを牛乳と混ぜ合わせてもうまく固まらないのであり、そのような工程はチョコレート工場にはない。第二に、平塚工場で製造する不二家のチョコレートは「L00Kチョコレート」をはじめ、フルーツペーストやナッツを含んでいる商品ばかりであり、単純に溶かして成型し直しただけでは製品にならない。第三に、小売店からチョコレートを回収して再利用することは、配送や包装を取り外して再包装するコストを考えたら経済的に割が合わない、などの点であった。
 不二家の側でも、この一月二十二日の「朝ズバッ!」に対しては、放送当日にTBSに電話で抗議し、翌日には、文書で調査と放送内容の訂正を申し入れていた。
 しかし、それに対してTBS側は、「証言の信懸性を確認するため」などと称して、「牛乳を混ぜ合わせるのでなければ何を混ぜるのか」「製造年月日表示、賞味期限表示が開始された時期は?」などと不二家側に質問するだけで、非を認めようとせず、交渉は中断していた。
 消費期限切れ原料の使用などの聞題を起こした不二家の側についての事実関係や原因究明の調査は、信頼回復対策会議のメンバーの別の弁護士を中心に行わせ、この「朝ズバッ!」の間題については議長の私自身が中心になって調査を開始した。不二家に対するマスコミのバッシングの中で最も過激だった番組であり、不二家の信頼失墜の元凶であった。その放送内容に虚偽があるか否かは不二家の信頼回復にとって重要な閏題だと考えたのである。
 私はまず、不二家平塚工場の製品の物流ルートについて調査し、小売店に出荷された製品が平塚工場に戻って来ることはありえないこと、そして、仮に、小売店からの返品を工場に持ち込もうとしたとしても、平塚工場内に、返品を受け入れる施設もスペースもないことを確認した。不二家平塚工揚で小売店から返品されたチョコレートが再利用されることはありえない――との確証をつかんだ上で、三月十二日に、TBSのコンプライアンス室長に電話をかけ、この問題への対応を問い質した。
 コンプライアンス室長との電話での会談はその後数回にわたって行われた。しかし、その室長は、言葉遣いは丁寧だが、答える内容はまったくデタラメで、その場しのぎの弁解を重ねるだけだった。その典型が三月十四日の次のようなやり取りである。

 郷原 賞味期隈切れのチョコレートが、他から持ち込まれたのを見たと言っているのか。
 室長 見たと言っている。
 郷原 どうやって持ち込んだのか。
 室長 トラックで持ち込むのを見たと言っている。
 郷原 証言者は、不二家のどの商品を溶かしたと言っているのか。

 室長 ちょっと待ってほしい。確認する。(数秒後)ルックチョコレートだ。

 郷原 ルックチョコレートには中にクリームが入っており、溶かしても再利用可能なチョコレートにはならない。
 室長 ルックチョコレートと言ったのは、私の間違いだった。証言者は、再利用したのがどのチョコレートなのかは言っていない。

 そして、この後、三月十六日になって、室長のほうから私に電話をかけてきて、突然、「チョコレート再利用の事実は九〇年代の前半のことだった」と言ってきたのである。
 このようなコンプライアンス室長とのやり取りの中で「朝ズバッ!」が放送した「チョコレート再利用疑惑」がまったくの事実無根であるとの確信を持った。しかし、不二家の信頼回復という面では、証言内容が信用できないことを指摘するだけでは不十分だった。不二家バッシングの象徴ともいえる「朝ズバッ!」の問題を、信頼回復対策会議の報告書で正面から指摘するためには、そもそも「元従業員」だとする証言者や返品されたチョコレートを再利用していたとの証言自体が存在するのか、それ自体がでっち上げなのではないか、などの点に関する何か決定的な証拠をつかむ必要があった。
 私は関運資料のファイルを常に鞄の中に入れて持ち歩き、僅かな時間でも取り出して何度も読み返した。三月十七日、横浜市で打合せをした後六本木での訂合せに向かう車の中で、そのファイルを取り出して眺めていた。
 放映された「顔なし証言」の中に、「全部が賞味期限だからゴミ箱のほうに入れていたら、怒られて」「パッケージに、 一つひとつにラベルがあって、そこに製造目と賞味期限が書いてあるってことなので」「それをもう一度パッケージをしなおすために裸にしてほしいんだって言われて」という言葉があった。その最初の部分に目をやっていたとき、「これと同じような言葉が別の文書の中にもあった」という記憶が頭をかすめた。


不二家従業員の対応メモ

 同じファイルに綴られていた関連資料の中に、放送の二日前の一月二十日に、TBSのディレクターが不二家に事実確認の電話をかけてきた際に対応した女子社員が残したメモがあった。
 「平塚工湯で働いていたという女性からの精報提供の事実確認」として「①賞味期限切れで返却されてきたチョコレートを再び溶かして使用していた②カントリーマアムについて。賞味期限が切れていたので捨てようとしたら上司に怒られ、それを再度新しいパッケージに入れて製品としていた」と書き込まれている。カントリーマアムとはチョコレート・チップが入った不二家の主力製品のクッキーのことだ。
 「答えた内容」の欄には「①工努で発生した成型不良品を溶かし直すことはあるが、返品は使っていない②カントリーマアムは平塚工場では未製造」と記載されている。克明なメモであり、しかも、機械的に電話の内容と対応を書きとめたものである。検事として長く刑事事件の捜査に携わった経験からも極めて信憑性の高い証拠だ。 この事実確認の②の文言と放映された証言を比較すると、「捨てようとしたら上司に怒られ」という部分が極めて酷似している。TBS側には、事実確認の文言の通りのカントリーマアムについての証言ビデオが存在するはずだ。一方の放送では、同じ文言の証言がチョコレートの再利用に関ずる証言として放送されている。
 「平塚工場で賞味期限切れのカントリーマアムを再包装・再利用した」との証言について不二家に事実確認した結果、平塚工場でカントリーマアムを製造していないことがわかったので、カントリーマアムについての証言をチョコレートに関する証言にすり替えて放送したのではないか。
 平塚工場でカントリーマアムを再包装・再利用することは、製造しておらず設備も材料もない以上不可能である。そういう客観的にありえない"事実"の証言は無価値であるのに、それを「チョコレート再利用疑惑」の告発証言のように編集して放送に使用したとすれば、握造そのものである。
 「これだ!」二つの書類を見比べていた私は車の後部座席で思わず声をあげた。
 私は、概要を不二家の広報室長に伝え、社長からその問題の取り級いとマスコミ対応について一任を受けた。


なんでチョコレート工場に クッキーが返ってくるのか

 しかし、このように決定的と思えるような捏造の証拠が出てきても、コンプライアンス室長のそれまでの対応から考えると、TBS側が、素直に提造事実を認めるとは思えなかった。電話メモの記載のような事実確認は行っていないとか、言い間違えたなどと、ありとあらゆる弁解や言い逃れをしてくることが予想された。
 そこで、メモに記載されたとおりのカントリーマアムについての証言が存在することの確証を、TBS側から直接つかんでおく必要がある。そう思った私は、"逃げ道"を塞ごうと考え、不二家側からTBS側に会談の申し入れを行わせた。
 三月二十五日、不二家本社で、不二家の広報部長、広報担当者とTBSのコンプライアンス室長と「朝ズバッ!」のプロデューサー二名に私が同席して会談が行われた。
 内容の録晋をすることについて了承を得た上で会談を始めた。その中でTBS側は、不二家側が事実確認したとおりカントリーマアムを再包装・再利用したとの証言ビデオが存在していることを認めた。加えて、TBS側はコンプライアンス室長も含め三人がロをそろえて「証言者が『チョコレート工場なのに、なんでクッキーが戻ってくるのだろうか』と思いながら、カントリーマアムを包装し直す作業を行っていたと話していたが、その証言をあえて放映せず、チョコレートについての証言のみ放映した」と説明した。
 TBS側はカントリーマアムの再包装についての証言ビデオの存在と、それを明確にチョコレートと区別して証言していたことをはっきり認めたのである。 その頃、『遇刊文春』がこの問題の取材を開始し、平塚工場の従業員にも接触を行っていた。

『遇刊文春』4/5号が問題を表明化

 三月二十八日午後、翌日発売の『週刊文春』の記事の早刷りが出回るのと相前後して、通信社が関連記事を配信、マスコミの取材が殺到したため、TBS広報室長とコンプライアンス室長が会見を行った。

三月二十八日、各社が報じる

 会見に参加した記者から聞いたところでは、TBS側は「証言者は平塚工場ではクッキーを製造していないことを承知しており『チョコレート工場になぜクッキーが戻ってくるのか』との疑問を抱いたという趣旨の証言をしている」と記載したペーパーを配布し、「カントリーマアムとチョコを混同・流用しているわけではないのか」との記者の質間に対して、「放送二日前に証言者の証言を得て、カントリーマアムの話とチョコレートの話それぞれについて、事実確認の質間をしている。記事にあった『賞味期限が切れていたのでゴミ箱に捨てたら上司に怒られ、再度パッケージに入れて製品にしていた』という趣旨の証言は、チョコレートに関するものだった」という趣旨の説明をしたという。

三月三十日、信頼対策会議報告書公表

三月三十日、私は、不二家信頼回復対策会議の議長として、約二ヵ月間の調査結果を総括する報告書(1,2,3)を公表した。
 そこでは、食品衛生面や品質保持上の問題はなかったが、食品製造現場の客観的な適正さの管理が不十分だったために消費者の「安心」を損なったこと、その原因として、企業の体質、経営者のリーダーシップの欠如にあったことなど不二家側の問題も厳しく指摘する一方で、マスコミ報道の問題にも言及した。
 そして、TBS「朝ズバッ!」の虚偽握造報道の疑いを指摘し、不二家はTBSに対する損害賠償請求の提訴も検討すべきだと提言した。
 報告書には、一月二十日のTBSからの事実確認の電話に関する女子社員のメモも添付し、三月二十五日の不二家とTBSとの会談の録音中の、TBS側がカントリーマアムについての証言ビデオが存在していると述べている部分などを、会見の中で公開した。
 この録音の公開については、TBS側の事前了解はとらなかった。TBS側がクレームをつけてくることは予想できたが、録音自体については了解を得ているし、極めて公共性、社会的重要性の大きい問題であることに加えて、TBS側が会議での発言内容をその後の会見等で覆しており、公表する社会的必要性がある。もし、TBS側が問題にしてくるのであれば、公開の場で反論を行うことで、この間題についてTBSに論争を仕掛けることも可能になると考えたからだ。
 その日の夜、TBSの広報室が「捏造は行っていない。不二家側のメモが間違っている。会議録音の無断公表は道義、モラルにもとる」とするコメントを出した。
 週末をはさんだ月曜日の四月二日、私は、TBSの社長宛に公開質間状を送付した。本件の公共性、社会的重要性と、それまでのTBS側の対応の問題を指摘し、会議録音の公開に踏み切った理由を示した上で、それでもなお「道義、モラルにもとる」と考えるのであれば理由を示すよう求めた。


「謝罪放送」か「無償広告」か

 不二家の信頼回復対策会議は三月末で活動を終え、その後、私は不二家とは無関係に、コンプライアンス研究センター長としての私的な立場でこの問題の追及を続けた。
 公開質問状に対してTBS側からは何の回答もなかった。一方で、TBSは、徹底的に不二家に擦り寄る戦略に切り替えていた。
 四月十八日の「朝ズバッ!」で、「謝罪放送」まがいの放送が行われた。一月二十二日の報道について「出荷されたチョコレートが小売店から工場に戻る」という証言は証言者が他人から聞いたことで確証がなかったこと、混ぜ合わせたものを牛乳と断定したことなどの点について、「誤解を招きかねない表現があった」とする一方で、「やらせ捏造」は否定した。そして、みのもんた氏は、不二家の主力商品のミルキーを頗張りながら、前日に販売を全面再開した不二家製品を宣伝。「スタジオのお菓子は全部不二家にしますから」と言った。

四月十八日、謝罪放送?無償広告?
 返品された期限切れチョコレートを再利用した事実の有無、証言テープの捏造の事実の有無など肝心なことは何一つ明らかにされなかったが、この放送を受けて、不二家は、「TBSの謝罪を受け入れる」と、あっさり矛を収めてしまった。 TBSのやり方は、公共の電波を便って、撮害賠償請求をする可能性のある租手方に「無償広告」を行うことで賠償の代替措置をとろうというものであり、まさに「電波の私物化」である。
 当事者間で解決してしまえば部外者の私が何を言おうと関係ないと考えたのであろうが、その後の展開はTBSの思惑どおりにはならなかった。

放送倫理検証委員会初の審理案件

 五月十二日、民放とNHKで構成する第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」が「放送倫理検証委員会」を新設した。関西テレビの「発掘! あるある大事典II」の捏造問題をきっかけに、総務省が新たな行政処分を盛り込んだ放送法改正を国会に提出したことを受け、放送業界の自浄能力を高めることで放送に対する公的介入を阻止するために新設された委員会であった。
 私は、「『外部から不二家を変える』改革委員会」の委員長を務めた田中一昭氏とともに、BPO検証委員会に「朝ズバッ!」の捏造疑惑について審理を要請。六月八日、審理入りが決定され、最初の審理案件となった。

BPO放送倫理検証委員会に審理要請、審理入り決定


 六月二十日、衆議院・決算行政監視委員会で放送のあり方が議題となり、私と広瀬道貞・民放運会長が参考人として呼ばれた。民主党議員からの質問に答え、広瀬会長は、放送倫理検証委員会は、捏造を疑われる報道があった場合に取材テープなどを提出させることができるという趣旨の答弁をした。

六月二十日、衆議院・決算行政監視委員会

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広瀬民放連会長

       六月二十日、広瀬民放連会長「BPOの判断は最高裁の判断のようなもの」

民放運会長が明言した以上、TBSも取材テープを提出しないわけにはいかない。証言のすり替え編集の事実が明らかになることは確実だと思った。


「カントリーマアムをチョコレートと混同?」

 事実、TBSが証言テープを提出した結果、私の予想どおりの外形的事実が明らかになった。ところが、追い詰められたTBS側は、「担当者がカントリーマアムをチョコレートの一種だと勘違いした」という、苦し紛れの弁解を始めた。そして、BPO検証委員会はその「幼稚園児レベルの言い訳」を丸呑みしたのである。
 八月六日に同委員会が出した「見解」では、私が問題にしているビデオ証言について「前後関係から判断すれば、チョコレートではなく、クッキーの『カントリーマアム』についての発言であった」と認定した上で、「ディレクターは『カントリーマアム』がクッキーではなく、チョコレートを主体とした菓子であると誤解しており、比較的、要領よく語っている『カントリーマアム』についての発言を使い、放送用に編集した」と述べて「誤解・過失」で片付けてしまったのである。

八月六日、BPO検証委員会が「見解」、八月七日、「朝ズバッ!」が謝罪と今後の対策を放送

八月十六日、夏休み明けのみのもんたが初めて番組で謝罪

八月二十六日、TBSレビューで「見解」の内容解説

 この「見解」を受けて、TBSは自社の検証委員会を立ち上げ、十一月十六日にその報告書が公表されたが、カントリーマァムの証言ビデオのすり替えの問題については、BPO検証委員会の認定に沿って、担当者の混同による編集ということで済ませた。
 私は十一月二十七日にTBSの社長宛に、二通目の公開質問状を送付し、記者会見を行った。
 質間の趣旨は単純であった。「元従業員」が「チョコレート工場なのになぜクッキーが戻ってくるのか」と証言していた事実があるのか否か、である。その事実があるとすれば、その証言テープを編集した担当者がカントリーマアムをチョコレートと誤解することはありえず、捏造を否定する根拠が崩れる。一方、その事実がないとすれば、三月二十五日の不二家・TBS会談の際に、コンプライアンス室長やプロデユーサーは「真っ赤な嘘」をついていたことになる(しかも、TBS側は三月二十八日の会見でも同様の発言をしている)。いずれにしても、TBSのコンプライアンスの重大な欠陥を示す間題である。
 十二月四日午前、私は衆院・総務葵員会での放送法改正の審議に参考人として呼ばれ、「朝ズバッ!」の不二家報道の捏造の疑い」に関するTB嶋側の対応と、」それをまったく検証しなかったBPO検証委員会の審理を厳しく批判した。

十二月四日衆議院・総務葵員会

 その日の夕方届いたのが、冒頭で述べた「回答書」だ。その内容はただちに記者会見を行って公表した。
 「チョコレート工場なのになんでクッキーが戻ってくるのか」との証言がなかったとすると、明らかな虚偽説明を繰り返していたというメディア企業にとっての重大なコンプライアンス違反を認めることとなる。しかし、その証言があったとすると、捏造を否定できなくなるという最悪の事態を招く。いずれの回答もできない状況に追い込まれたTBSが行ったのが、本稿の冒頭で紹介した回答である。それは、メディア企業としての「社会的自殺」に等しいものであった。
 二〇年前、オウム真理教による坂本堤弁護士一家殺害事件に関して、TBSは、坂本弁護士のインタビュービデオをオウム真理教側に見せ、その後放映を中止するという報道機関として重大な過ちを犯し、それが殺害事件の原因の一つになったと言われている。しかも、坂本一家失綜後も、ビデオを見せた事実を明らかにしなかったことが捜査難航の一因となり、オウム真理教はその後、松本サリン事件、地下鉄サリン事件などの凄惨な犯罪に及んだ。教団摘発後もビデオを見せたことを一貫して否定し、国会でも否定する答弁を行ったが、その後に当時の社長が全面的に事実を認めて謝罪した。この日、「ニュース23」のキャスター筑紫哲也氏は「TBSは今日、死んだに等しいと思います。過ちを犯したということもさることながら、その過ちに対して、'どこまで真っ正面から対応できるか、つまり、その後の処理の仕方というのが殆ど死活に関わる」と述べた。TBSは、今一度その時点に立ち返って今回の問題を考えてみる必要があろう。

TBSはまた「死んだ」?

 信頼回復対策会議報告書で「朝ズバッ!」の虚偽程造疑惑を指鏑して以降、不二家へのバッシングはほぼ収束した。 怒声、罵声を浴びせられながら数多くの電話に丁寧に対応し、TBSからの事実確認と回答について克明にメモを残した女子社員、不二家バッシングの嵐の中で勇敢にTBSへの抗議を行った広報担当者、『週刊文春』の取材に協力した平塚工場従業員など不二家社員の熱意がペコちゃんを救った。
 一方、その結果、外形的事実のみによって捏造疑惑を指摘されるという異例の事態に直面したTBSは、直接の.当事考、関係者、経営者のすべてが、事実に向き合わず覆い隠すことで「結束」し、報道機関として二度目の「死」に瀕している。 それを救う唯一の途は、TBSに所属するジャーナリストが声を上げることだ。年明け後も、
 「環境偽装」など企業不祥事が相次いで表面化しているが、その多くは、実害を伴わない「形式上の偽装」だ。全国の不二家フランチャイズ店に実質的被害を与えた捏造疑惑に真摯に向き合おうとしないメディア企業が追求に加わっている限り、企業不祥事をめぐる報道の歪みは解消されない。

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こうはらのぶお 一九五五年島根県生まれ。東 京大学理学部卒業。東京地検特捜部、長崎地検 次席検事などを経て、二〇〇五年から現職。〇 六年検事を退官し弁護士登録。不二家「信頼回 復対策会議」議長を務めたほか、コムスン間題、 各発注官庁の談合間題など、多くの企業・官庁 の不祥事に関する調査、指導に携わっている。

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